株式会社FMCC(Fatigue and Mental Health Check Center)

健康について 第12回

⑫ 疲労の回復法3―食事と疲労回復―

 食への取り組みは、健康の維持、増進に向けて不可欠な要素であり、疲労回復においても重要な位置を占めています。現在、厚生労働省が推進しています「健康日本21」におきましても、“栄養・食生活は、生命を維持し、子どもたちが健やかに成長し、また人々が健康で幸福な生活を送るために欠くことのできない営みである”と記載されています。

 そこで、今回は疲労回復における食生活や栄養の重要性についてご紹介致します。

 

●孤食、欠食と疲労との関係

 一人で食事をする「孤食」や朝食を取らない「欠食」は、健康に悪い影響を及ぼすものと考えられています。そこで、私たちが285名の女子大生を対象に疲労の程度と食生活との関連を調べましたところ、「食事をするとき一人ですることはありますか?」という質問に対しては、「いつも一人」と回答した学生は疲れが軽い軽度疲労群では12.2%であったのに対して、強い疲労がみられる重度疲労群では20.5%と多く、一方、「一人ですることはほとんどない」と回答した学生は軽度疲労群では28.6%に対して重度疲労群では12.1%と少なく、孤食が疲労と深く係っていることが確認されました。

 さらに、「あなたは普段欠食をすることがありますか?」という質問に対しては、「欠食はほとんどない」と回答した学生が軽度疲労群では57.1%みられたのに対して重度疲労群では30.3%と少なく、一方、「ほぼ毎日」と回答した学生は軽度疲労群では6.1%でしたが重度疲労群では15.2%みられました(図1)。欠食の約8割は朝食であり、朝食を摂らないことが学生の疲れと深く係っていることがわかってきたのです。


図1. 疲労病態と欠食との関連

 厚生労働省が推進しています健康日本21によりますと、朝食の欠食率は20年前に比べて、20歳男性で20.1%から32.9%へ、30歳代男性で9.2%から20.5%へと増加してきており、国民の健康の維持・増進における大きな問題の1つとして取り上げられています。

 また、国民栄養調査においても朝食の欠食者では一日の食事摂取における栄養バランスの偏りが認められることが報告されています。そこで、食育基本法における第2次食育推進基本計画では、朝食を欠食する国民の割合を減少させることや、家族や友人と一緒に食べる「共食」の回数を増やすことが、食育推進の目標に関する事項としてあげられているのです。

 

●米食を中心とした日本の食文化の大切さ

 285名の女子大生に対する調査の中で、主食と疲れとの関係を米食、パン食、麺食に分けて調べましたところ、軽度疲労群は1日約240gの米を摂取していましたが、重度疲労群は約180gと有意に少なく、米食の割合が多いと疲労が軽減していることが判明しました。

                    

 では、なぜ米を食べると疲労が軽減するのでしょうか? その答えは、米に含まれる魔法の栄養素ではなく、副食の豊かさの違いにあることがわかりました。副食として摂取する肉類の摂取量は軽度疲労群と重度疲労群とで有意な差はみられませんでしたが、魚介類の摂取量が軽度疲労群は42.3g/日に対して、重度疲労群は23.6g/日と少ないことが判明したのです。さらに、魚に多く含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)などのn-3系不飽和脂肪酸の摂取量が、軽度疲労群は有意に高いこともわかりました。これらの脂肪酸には血栓予防作用や動脈硬化予防作用、脳機能の改善作用や乳幼児の神経発達に重要な役割を果たしていまして、疲労の回復と深く結びついていると思われます。また、軽度疲労群は「銅」、「マンガン」、「ビタミンB12」などの摂取量も多いことが分かっていまして、米食を中心とした日本の伝統的な食文化が疲労の回復に役立っているのです。

                 

                 

 近年、日本では食の欧米化に伴い米の摂取量の低下が報告されており、米を食べる機会が減っている方も多くおられると思います。また、仕事の忙しさのあまり、朝食を摂る時間があまりない方もおられるでしょう。しかし、もしあなたの疲れがなかなか取れないと感じておられるのでしたら、今一度自分の食生活について見直されることをお勧め致します。

 


医師:倉恒弘彦(くらつね・ひろひこ)
プロフィール
大阪市立大学医学部客員教授として、疲労クリニカルセンターにて診療。1955年生まれ。
大阪大学大学院医学系研究科 招へい教授。
日本疲労学会理事。著書に『危ない慢性疲労』(NHK出版)ほか。

 

 

 

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