株式会社FMCC(Fatigue and Mental Health Check Center)

健康コラムについて第11回

⑪ 疲労の回復法2―森林浴やミドリの香りの抗疲労効果―

 「疲れた時にどう対処していますか?」と一般の方に尋ねたところ、多くの方が活用しているのは入浴、笑い、アロマ、マッサージ、体操、指圧、漢方薬、音楽などでした。

 そこで、今回は科学的効果が明らかになってきた森林浴とミドリの香りの科学的効果についてご紹介いたします。

 

●森林浴でリフレッシュ

 林野庁のウェブサイトには、森林浴には癌やウイルスからからだを守るために大切な働きをしているNK活性などの免疫力を高める効果がみられることや、心身の癒しと関係している副交感神経活動が高まり、ストレス時に高まる唾液中のコルチゾール濃度が低下することなどが紹介されています。

 私たちは、大学生12名の協力を得て精神的な作業を3時間続けた後に、都市環境と森林環境で2時間休息した場合の違いを調べてみました。その結果、気分の落ち込み、イライラ感、活力、不安感、意欲などの自覚症状は明らかに森林環境の方が大きく改善していることが分かりました(図1)。

 さらに、精神作業を3時間するだけで血液中の酸化ストレスが上昇していましたが、森林環境で2時間の休息を取った場合は酸化ストレスが減少して元に戻りました。しかし、都市環境で2時間休息を取った場合は回復がみられなかったのです(図2)。

 このような違いの理由としては、森林浴ではそよ風が肌に触れ、鳥や虫たちの声を聞くことによる快適感や、静寂な環境に身をおくことによる精神的安定、森林の緑が目の疲れを癒す効果などがみられ、神経系を介して免疫系や内分泌系の変化がみられると考えられています。また、木が放出するフィトンチッドなどによる香りによる殺菌作用やリラックス効果なども関係していることも分かってきています。


図1. 森林浴の抗疲労効果の検証 実験風景(大阪長居公園にて)


図2. 森林環境と都市環境における酸化ストレス(d-ROM)変化の違い

 

●ミドリの香りの抗疲労効果

 ミドリの香りの主成分は、青葉アルコール、青葉アルデヒドです。この香りをネズミに嗅がせてみますと、元気な時には変化はみられませんでしたが、疲労モデルのネズミでは活動量を増やす効果がみられることが分かりました。

 さらに、よりヒトに近い動物であるサルで調べましたところ、みどりの香りには単純作業に伴う反応時間の低下を改善する効果がみられ、その時の脳の中を覗いてみますと前頭葉の一部が活性化していることも確認されました。

 そこで、24名の大学生を対象に7日間みどりの香りを入眠時に30分間使用して、その前後の変化を調べてみましたところ、みどりの香りを7日間用後は疲労や抑うつの得点が有意に改善していました(図3)。

 さらに、ライフ顕微鏡(㈱日立システム)という特殊な装置を用いて睡眠・覚せいリズムを調べてみましたところ、ネズミの実験と同様に覚醒時の活動量は香りを嗅ぐ前と比較して7日後には有意に増加していました。

 疲労回復には、質の良い睡眠が重要であることが良く知られています。そこで、香りを嗅ぐ前の3日間(前)、香りを嗅ぎ始めて1-3日目(中)、香りを嗅ぎ始めて5-7日目(後)における睡眠効率を調べてみましたところ、睡眠効率が95%未満の睡眠障害がみられる10名では香りを嗅ぎ始めて1-3日目(中)より回復がみられ、5-7日目(後)には有意な睡眠効率の改善が確認され(図4)、みどりの香りによる疲労回復効果の一端が明らかになってきていました。

 生活環境ストレスに伴う疲労においても、疲労の増悪とともに相対的な交感神経系の過緊張な状態に陥ることが知られていますが、みどりの香りには精神活動に伴う相対的な交感神経系の過緊張を和らげる効果も報告されていますので、今後の活用が期待されています。


図3. みどりの香りの効果:疲労感と抑うつ


図4. みどりの香りの客観的効果

 


医師:倉恒弘彦(くらつね・ひろひこ)
プロフィール
大阪市立大学医学部客員教授として、疲労クリニカルセンターにて診療。1955年生まれ。
大阪大学大学院医学系研究科 招へい教授。
日本疲労学会理事。著書に『危ない慢性疲労』(NHK出版)ほか。

 

 

 

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