酸化ストレス評価
生体に疲労状態が存在する場合、細胞レベルでは酸化ストレスの増加に伴いタンパク質や遺伝子に傷が生じていることが多い。そこで、最近では血液中の酸化ストレス評価を行うことにより、疲労病態を客観的に把握することも行われている。
我々は、血液中の酸化ストレスについて、酸化ストレス値(d-ROMs)・抗酸化力値(BAP)((株)ウイスマー)を用いて評価したところ、急性疲労、亜急性疲労、慢性疲労では異なった変動パターンが認められ、疲労病態の有無とともに、疲労のステージについて判定できることを報告してきた(図1)。
図1.酸化ストレス値/抗酸化力値による種々の疲労状態の鑑別
健常者の急性ストレスではd-ROMsとBAPは共に上昇し、相対的酸化ストレス度(OSI)には変化はみられない(図2)。しかし、2週間程度の残業が続いた亜急性疲労では、d-ROMsの上昇はみられるがBAPの上昇は消失しほぼ正常値と変わらない(OSIは上昇)(図3)。そして、慢性的な疲労病態ではd-ROMsは上昇しているが、BAPは低下している(OSIは上昇)(図4)。したがって、d-ROMsとBAPをともに評価することにより、疲労の有無とともに疲労のステージを評価することが可能となる。
この指標を活用して、野島らが2011年に東日本大震災地域において救援活動に従事していた市職員369名と、被災とは無関係の山口県一般地域住民339名の評価を行ったところ、d-ROMsは被災市職員群で有意な上昇がみられ(図5-A)、酸化ストレスが上昇した疲労状態に陥っていることが判明した。
しかし、抗酸化力を表すBAPについての評価では、被災市職員群と一般地域住民群の間には有意な変化はみられなかった(図5-B)。このデータをよくみてみると、多くの被災市職員はBAPの上昇がみられており、まだ予備力のある急性ストレス反応状態であると考えられたが、一部の被災市職員はBAPの明らかな低下がみられており、酸化ストレスの上昇・抗酸化力の低下という疲弊状態に陥っていることが明らかになった。したがって、このような客観的評価を行うことにより、まだ頑張れる急性疲労状態であるのか、早く休養を取り体調のリセットをした方が望ましい疲弊状態であるのかの判定が可能となる。なお、幸いなことに、翌年に行った再調査では低下がみられた大半の市職員のBAPは改善が確認された。
文献
1. 野島順三. 新たな疲労バイオマーカー「相対的酸化ストレス度」の臨床的有用性の検討―相対的酸化ストレス度を用いた東日本大震災被災者の疲労度評価―. 厚生労働科学研究障害者対策総合研究事業(神経・筋疾患分野)「慢性疲労症候群の病因病態の解明と画期的診断・治療法の開発」平成25年度報告書p15-19,2014年3月.
2. Fukuda S, Nojima J, Motoki Y, Yamaguti K, Nakatomi Y, Okawa N, et.al. A potential biomarker for fatigue: Oxidative stress and anti-oxidative activity. Biol Psychol. 2016;118:88-93.