自律神経機能評価 これまでの開発のあゆみ
1999年、科学技術庁より国民の税金を目に見える形で還元できるような研究を応援したいとの目的で、「生活者ニーズ対応研究」の公募がありました。当時は、私たちは厚生省や文部科学省の慢性疲労に関する臨床研究を進めていましたが、「生活者ニーズ対応研究」は年間予算が2-3億円という非常に大きなプロジェクトの公募でしたので是非応募しようとのことになり、大阪バイオサイエンス研究所第3部門部門長の渡辺恭良先生と私の連名で、「疲労・疲労感の分子・神経メカニズムの解明とその防御に関する研究」を提案しました。幸い、この提案が採択され、2005年までの6年間で約13.3億円という非常に大きな研究費を頂くことができました。
「疲労・疲労感の分子・神経メカニズムの解明とその防御に関する研究成果の一部」概要図 渡辺恭良
この臨床研究では、疲労の客観的評価法の開発についても検討を進めていまして、さまざまな新知見がみつかってきました。そこで、新知見を特許として申請することを目的に、2005年に㈱疲労科学研究所を設立し、自律神経機能評価に関する多くの特許を取得してきました(特許リストを参照)。
2008年には、我々が開発した自律神経機能評価に関する知見を、健康診断などの事業でも活用するために、㈱産業疲労特定検診会社(2012年 ㈱FMCCに社名変更)を設立しました。この取り組みは、心電計・脈波計を用いた自律神経機能評価による「予防医療を目的とした産業疲労・ストレス検診事業」として、経済産業省近畿経済産業局より「新連携事業計画」第19回認定をうけております。
このような取り組みを進めていましたところ、㈱村田製作所より、心電波と脈波を同時に計測できるチップを開発したので、連携できないかとの相談を頂きました。当時の自律神経機能評価は、心電計か、脈波計のどちらかを用いて心拍変動解析を行うことが主流でしたが、それぞれにメリットとデメリットがあり、1台で両方のデメリットを補うことができる㈱村田製作所のチップは大変魅力的でした。そこで、㈱疲労科学研究所が㈱村田製作所社製チップを用いて自律神経機能評価装置(VM301、医療機器)を開発しました。販売は、連携していた㈱日立システムに委託して事業を開始したところ、この自社で開発した自律神経機能評価装置を用いた事業は大阪市トップランナー育成事業に認定され(2014年)、健康科学ビジネス支援機構の健康開発・取り組み部門ベストセレクションズ2014を受賞しています。
さらに、VM301は分析ソフトはノートパソコンにインストールする形のため高価な医療機器になっていましたが、分析ソフトをインターネットで接続するサーバーにおくことにより、より安価な自律神経機能評価装置(VM500、医療機器)を2015年に開発し、2017年にはこの取り組みが神奈川県のME-BYO BRAND認定(2017年)を受けています。
㈱村田製作所は、これまでは心電波と脈波を同時に計測できる測定チップの製造のみを製造して㈱疲労科学研究所に納品し、㈱疲労科学研究所がそのチップを用いて自律神経機能評価装置を製造してきましたが、自律神経機能評価装置の有用性や今後の発展性を考えて、2018年には㈱疲労科学研究の金型を購入して自律神経機能評価装置(MF100(㈱村田製作所製造)、健康機器)を販売することになり、学術指導は倉恒弘彦が務めることになりました。2020年には、㈱疲労科学研究所も自律神経機能評価装置(VM600、健康機器)の製造販売を開始しています。
㈱村田製作所HPより引用
また、㈱日立製作所や㈱日立物流との共同研究の中で自律神経機能評価がトラック運転手の健康評価や運転事故リスクの予測に活用できることが明らかになり、2021年より㈱日立物流(現:ロジスティード㈱)のSSCV-Safety(安全運行管理ソリューション)に自律神経機能評価が組み入れられています。SSCV-Safety(安全運行管理ソリューション)の詳細はこちらよりご確認ください。
ロジスティード㈱HPより引用
なお、自律神経機能は生活環境のストレスなどで大きく動くことが知られており、自分の基礎的な状態を把握するためには血圧測定と同様に、自宅にて起床時や入眠時などの測定が理想的です。また、自律神経失調などの病態の改善には、アロマ、ストレッチ、ヨガ、鍼灸、瞑想、運動などが推奨されていますが、その効果は個人個人で異なっていることが知られています。したがって、自分に合った対処法を見出すためには、自分が取り入れた介入法の前後で自律神経の状態を調べることが大切です。しかし、これまでに発売されてきた自律神経機能評価装置は最低でも20万円以上と高価であったため、医療機関や検診施設など限られた場所での計測しかできませんでした。
そこで、「いつでも、どこでも、だれでも計測可能」を目指して、スマートフォンのカメラ機能を介した自律神経機能評価システムの開発を行い、2021年にスマホアプリ「ヒロミル」開発し、販売を開始しました。これまでの計測器は、1秒間に600回のデータを分析(サンプリングレート600Hz)していましたが、スマホアプリ「ヒロミル」のカメラ機能はその1/10(1秒間に60回のデータを分析(サンプリングレート60Hz))しかなく、信頼性の低下が危惧されましたが、数学的にアップサンプリングする手法を用いることにより、ノイズがない状態であればスマホアプリ「ヒロミル」で採取した脈波間隔は心電計で1000Hzで採取したp-p間隔と極めて高い相関がみられることが確認され、日常的に自分の状態を把握する目的であれば利用できると考えています。
このスマホアプリ「ヒロミル」を用いた事業は、大阪市トップランナー育成事業に認定され(2021年)、堺市スタートアップ実証推進事業トライアルラウンドテーブル(2022年)として採択されています。
さらに、最近ではアロマ、ストレッチ、ヨガ、鍼灸、瞑想、運動などの効果を客観的に評価するために、連続して自律神経機能を評価するニーズが高まってきました。また、スポーツ競技などで集中力や不安感(メンタルヘルス)などが関係する競技では、競技の成績と自律神経の状態が密接に関係していることが予想されるため、連続して自律神経機能を評価することにより競技成績の向上につなげることができるのはないかとの要望もいただくようになりました。
このような中、スポーツメーカーの㈱ミズノはスポーツ選手の運動強度を耳に装着する脈波センサー「ミクハ」で計測する商品を販売していることに気づきました。現在発売されています脈波センサー「ミクハ」のサンプリングレートは75Hzで、スマホのカメラ機能と大きな変化はありませんでしたが、㈱ミズノと会議を重ねた結果、サンプリングレートを5倍の375Hzに向上させることが可能であることが判明した。そこで、株式会社FMCCが「ミクハ」を用いて自律神経機能を分析するソフトを開発し、連続して自律神経機能を調べることができる「ミクハ-FSL」を2023年より発売することとなりました。スポーツ、仕事、学習などにおける成績と合わせて評価することにより、あなたの最良の状態を客観的に知ることを手助けします。
また、2024年には胸部に簡単に装着して心電波を計測できる㈱ユニオンツール株式会社製のマイビート(サンプリングレート1000Hz)を用いて連続して自律神経機能を評価できる「マイビートFMCC」を開発する予定です。私たちは、学習時における記憶力や理解力、集中力に自律神経機能が深くかかわっており、学習や作業時における自律神経機能評価が学習効率や作業効率の改善につなげる指標となることを既に特許(特許リスト参照)として取得していまして、連続した自律神経機能評価の試みは、今後より応用範囲が広がるものと期待しています。