株式会社FMCC(Fatigue and Mental Health Check Center)

日本における疲労の実態調査

ア)一般地域住民を対象とした厚生省研究班調査(1999年)

 日本では、「疲労」をキーワードとした疫学調査はほとんど行われていなかった。そこで、既に実施されてきた健康に関する疫学調査の中で、疲労に関する質問を調べてみたところ、1979年に行われた「体力・スポーツに関する世論調査」の中に、「日常の仕事をしていて、とくに疲れをおぼえることがよくありますか、そういうことはありませんか?」という問いがみつかった。この質問に対する回答を調べてみると、61.9%の人が「よく疲れる」もしくは「ときどき疲れる」と答えており、当時から多くの日本人は日常的に疲れを感じていたことがわかる。

  しかし、「一晩眠れば、翌日は疲れがとれますか?」の問いに対しては58.9%の人が「回復する」と回答しており、当時の疲労の大半は安静や休息により回復する生理的な疲労であった。実際、同じアンケート調査の中に、「あなたは、このところ健康だと思いますか?」という問いに対して、「あまり健康でない」と答えた人は14.4%に過ぎず、たとえ疲れは感じていても日常生活には支障をきたさない程度のものであったと思われる。

  1999年、厚生省研究班(班長:木谷照夫)が15~65歳の一般地域住民4000名を対象に本格的な疲労に関する疫学調査(有効回答数3015)を実施したところ、約6割の人が日常生活の中で疲労を感じていることが明らかになった1)。1,078名(35.8%)の人が半年以上続くか繰り返す慢性的な疲労を自覚しており、その内1065名について調べてみると、418名(39.2%)が自覚的な作業能力の低下、51名(4.8%)が学校や会社を時に休む、13名(1.2%)が学校や会社をしばしば休む、18名(1.7%)が休職・退職していると答えていた。このことは、最近の社会的環境の変化に伴い、疲労の質が変化し、休息してもなかなか回復がみられない慢性的な疲労が増えてきていることを示唆している。 

イ)一般地域住民を対象とした厚生省研究班再調査(2012年)

日本における疲労の本格的な疫学調査が実施されて10年以上が経過したため、慢性疲労の有病率の変化を調べることとなり、1999年と同一地区の一般地域住民2000名(有効回答数1164)を対象に、疲労の疫学調査を厚生労働省研究班(班長:倉恒弘彦、2012年)が実施することとなった。

 その結果、一般地域住民の4割近く(39.4%)が半年以上続く慢性的な疲労を自覚しており、疲労を自覚している人の13.6%の人は「しばしば日中に休息が必要である」、5.8%の人は「月に数日以上学校や会社を休む」「しばしば休む」「休職、退職」という状況に陥っていた2)。

 この2012年の調査でも、1999年の調査結果と同様に約1/3の人が慢性的な疲労を自覚し、その半数近くが疲労が誘因となった日常生活や社会生活の問題を抱えていることが確認されており、慢性疲労は21世紀の社会が取り組むべき、重要な課題の1つとなってきている。

 我々は、21世紀COEプログラム「疲労克服研究教育拠点の形成」(代表研究者:渡辺恭良,平成16-20年)において、疲労病態における分子神経メカニズムの一端を明らかにするとともに、2013年に設立した大阪市立大学健康科学イノベーションセンター(http://www.chsi.osaka-cu.ac.jp/、所長:渡辺恭良)ではイメージングやバイオマーカーなどの研究を推進してきた。2015年からは、現在91参画機関で構成される文科省・科学技術振興機構「健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス」プログラム(https://rc.riken.jp/)として展開し、疲労の正確な診断・治療法の開発に取り組んでいる。

  

参考文献

1. 簑輪眞澄、谷畑健生、松本美富士、ほか.地域における疲労の実態とリスクファクター.愛知県豊川保健所管内の2市4町実態調査.厚生科学研究費補助金健康科学総合研究事業「疲労の実態調査と健康づくりのための疲労回復に関する研究」平成11年度報告書 p19-44、2000年3月.

2. 倉恒弘彦. 慢性疲労症候群の実態調査と客観的診断法の検証と普及 厚生労働科学研究 障害者対策総合研究事業(神経・筋疾患分野)平成24年度報告書 p1-29, 2013年3月.


 

医療機関を受診している患者を対象とした厚生省研究班調査(2000年)

 2000年、前年に一般地域住民の疲労疫学調査を実施した同一地区において、プライマリケアを担っている診療所や市民病院を対象に疲労のアンケート調査(対象:外来受診患者2180名、有効回答数1767名(81.1%))を実施したところ、半年以上続く慢性的な疲労が45%の患者に認められ、その中で労働や作業能力の低下がみられた患者が43%、労働が困難な状態に陥っている患者が10%認められた。そこで、患者の主治医にその病因について尋ねたところ、糖尿病、高血圧、脳血管疾患、癌などの生活習慣病が多く認められたが、疾病に基づく疲労と診断できたものは39%に過ぎず、「働き過ぎによる過労」が32%で、「原因が明らかでない疲労(原因不明)」が29%もみられることが明らかになった1)。

 体調不良を自覚した場合、医療機関を受診して診察と検査を受ければ、その原因が明らかになり、適切な治療が受けられると考えられがちであるが、慢性的な疲労に関しては、その大半は医療機関を受診してもその病因がよくわからないのが実情である。したがって、原因の明らかでない慢性疲労はプライマリケアを担っている医療機関においても、日常診療の中で対応している疾病の1つとなってきている。

 

参考文献 

1. 倉恒弘彦.慢性疲労症候群に対する治療法の確立.科学技術振興調整費 生活者ニーズ対応研究「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する総合研究」平成16年度報告書 p305-32、2005年3月.


 

疲労に伴う日本社会における経済損失の算出

 1999年,疲労による神経・免疫・内分泌調整の破綻等の分子メカニズムの解明,あるいはどのようにして疲労を感じているのかという「疲労感」の神経メカニズムの解明,それらをもとに疲労および疲労感を和らげる方法を科学的な根拠のもとに創生することを目的として,科学技術振興調整費生活者ニーズ対応研究「疲労および疲労感の分子神経メカニズムとその防御に関する研究」(代表研究者:渡辺恭良,平成11-16年,http://www.hirou.jp/ )」が採択され,この研究活動の中で,日本における疲労による経済損失を算出することとなった。

 そこで,前述の厚生省研究班が実施した一般地域住民における疲労疫学調査結果(1999年)と通商産業省産業政策局新規産業課で作成された報告書「経済構造改革の効果試算について」(2000年)を用いて,感覚投入手法の1つであるSuccessive Proportional Additive Numerationにより年齢階層ごとの情報通信,エネルギー,物流,金融,医療,介護育児,環境などに与える影響を算出したところ,慢性的な疲労に基づく経済損失は7646億円,病的な疲労に伴う経済損失は4081億円であり,日本における慢性疲労全体によって引き起こされる経済損失は医療費を除いて年間約1.2兆円にも及ぶことが判明した1)。したがって,慢性的な疲労は,医学的観点のみならず経済的損失という観点からも大きな社会問題の1つとなっている。

参考文献

1. 倉恒弘彦.慢性疲労症候群に対する治療法の確立.科学技術振興調整費 生活者ニーズ対応研究「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する総合研究」平成16年度報告書 p305-32,2005年3月.


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